刑事訴訟法とは何か

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目次

刑事訴訟法とは何か。

刑事訴訟法とは何でしょうか。どのような役割を果たしているのか、大阪天王寺の刑事弁護士が刑事訴訟法の全体像を解説させていただきます。

1 刑事訴訟法とは

(1)刑事訴訟法とは

 刑事訴訟法は、刑法が規定する犯罪が実際に行われたのかの事実認定を行う手続きを定め、国家刑罰権が発生しているのか否かを確定する手続法を言います。
 これに対して刑法は、刑法は、犯罪と刑罰、犯罪と刑罰の関係を規律した実体法です。

(2)実体法と手続法

・実体法とは、どのような条件を満たせば、権利の発生、変更、消滅が認められるのを規律する法律であり、
・手続法では、実体法で発生、変更、消滅をするための条件を認定するために裁判手続等を規律した法律です。

 刑法は、① どのような行為が犯罪に該当するのか
     ② 犯罪を行った場合の刑罰を受けるのか 
 を示します。

 犯罪とは、構成要件に該当する違法で有責な行為をいいます。原理的に人はいかなる行動をとることは可能ですが、特定の行動は他者の人権、法律上保護に値する利益を害する危険性がある行為が存在します。そこで、国家は、特定の行為には、刑事罰を加えることを予告し、特定の行動を自らの意思でとった場合には現実に刑事罰を加えることで、特定の行動をとらないように働きかけ、他人に危害を加える行為を抑制するといった制度を設けています。
 もっとも、刑事罰には、死刑、無期懲役、有期懲役など人の生命、身体の自由に対して苛烈な措置を取ることとなり、慎重な手続きのもとで、どのような事実が行われたのかを認定していかなければなりません。過去にいかなる事実があったのかを残された証拠から合理的疑いを超えるレベルの立証させることで慎重な事実認定、法令適用を行っていくこととなっています。

(3)刑事訴訟法は適正な手続きを実現するもの

 憲法31条には、何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられないと定めています。刑事訴訟法は、刑罰が、国民の権利、自由を大きく制限するものであるため、犯罪の捜査、公訴の提起、裁判所での審理、裁判の執行、不服申し立てなど各段階で真実発見と人権保障を全うするために慎重な手続きが設けられています。

2 刑事訴訟法の概要

 刑事訴訟法は、第1編に「総則」を置き、第2編で捜査、公訴を含む「第一審」を、第3編以降に「上訴」「再審」「非常上告」「略式手続」「裁判の執行」を定めています。それぞれどのような規定が置かれているのかについて解説をしていきましょう。

3 総則

(1)刑事訴訟法の目的について (1条)
 

 刑事訴訟法は、刑事事件につき、公共の福祉と個人の基本的人権の保障を全うしつつ、事案の真実を発刊し、適正かつ迅速な刑罰法令を実現することとなっています。刑事訴訟法規則においても、訴訟上の権利は、誠実にこれを行使し、濫用してはならないことが規定されています。
 ①真実の発見と②人権保障の双方の要請を満たすために、迅速、適正な手続きを行うこととなっています。

(2)裁判所の管轄 (2条から19条)

 管轄とは、具体的な刑事事件について、どの裁判所が審理する権限があるのかが定められます。
① 事物管轄として、事件の重さから、簡易裁判所が対象となるのか、地方裁判所が対象となるのか、特別に高等裁判所が対象となるのかが決まります。
② 土地管轄として、事件に関して、どこが第一審を行うのかが決まります。
 裁判所の土地管轄は、犯罪地、被告人の住居、居所、もしくは現在地となります。
③ 審級管轄として、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所などそれぞれどこが管轄するのかが決定されます。

(3) 裁判所職員の除斥及び忌避

 公平な裁判所を行うには、事件に関係する裁判官などが事件に対して中立でなければなりません。
・除斥とは、裁判官が不公平な裁判をするおそれがある場合に一定の法定の事由があるときに、当然に職務の執行から排除する制度です。
・忌避とは、裁判官が不公平な裁判を行うおそれがあるときに、当事者の申立てによって職務の執行から排除させる制度です。不公平な裁判を行うおそれとして、その事件について公平で客観性のある審理及び裁判が期待できない場合をいいます。なかなか忌避が認められる事例は少ないでしょう。
・回避とは、裁判官自らが忌避されるべき原因があるというときに自ら職務の執行から外れることができるものです(規則13条)。

 裁判員制度において、市民の裁判に参加することができるときには、欠格事由、就職禁止事由などがあるかをチェックすることが必要となるでしょう。

(4) 訴訟能力

 刑事裁判において手続きに参加するためには、訴訟能力を有していなければなりません。訴訟能力は、手続法上の能力として必要であり、一定の訴訟行為をするにあたってその行為の意義を理解し、自己の権利を守る能力が必要となります。

(5) 弁護及び補佐(30条から42条)

 刑事訴訟法は、刑事事件において人権保障を全うするために、弁護人依頼権を定めています。被告人、被疑者、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、弁護人選任権を有し、私選弁護人を選ぶことができます。
 また、資力申告書等を提出し、資力がない場合には、国選弁護人を国が選任することとなります。
 弁護人、弁護人となろうとするものは、身体の拘束を受けている被疑者、被告人に対して、立会人なく接見することなど、接見交通権により弁護人からの法的支援を受けられる環境整備が行われています。

(6) 裁判(43条から46条)

 裁判とは、難しい用語ではありますが、訴訟法上は、裁判機関の意思表示を内容する訴訟行為をいい、判決、決定、命令といった形式にて判断がなされます。
・判決とは、裁判所により重要な事項に対する裁判を言います。有罪判決、無罪判決、控訴棄却判決、管轄違い判決、裁判員裁判の部分判決などが存在します。終局的な判断にわたるものが多いでしょう。

・決定とは、裁判所の裁判のうち判決手続きをしない裁判の形式を言います。
 決定は判決と異なり、口頭弁論に基づく必要がありません、決定に対する不服申し立ては、即時抗告ないし抗告を行います。

・命令とは、裁判官が主体となるもので、裁判長や寿命裁判官が訴訟指揮意見などに基づいて出すものです。令状裁判官の逮捕令状も命令とあたると解されるでしょう。

 裁判を行うためには、人権を侵害することとなるため、裁判所が恣意的な判断を行っていないこと、上訴で審判対象を明確にするために理由が付されます。

(7) 書類及び送達(47条から54条)

 書類の送達について、民事訴訟に関する法定の規定が準用されています。送達手続きは公的書類が相手方に告知されたことを示すためのものと裁判上は重要なものです。もっとも、あえて受け取らないことで手続きを進めることができないよう多様な送達方法(交付送達、出会送達、補充送達、差置送達、付郵便送達が設けられており、逃亡などが行われたとしても効力が生じる形での送達ができるようになっています。もっとも、公示送達については、防御権を行使する必要性から認められていません。

(8) 期間(55条から56条)

 期間とは、一定の長さをもった法的関係の時間の区切りをいいます。刑事訴訟法では時間制限が厳しいものが多くあるために、期間について始期などを把握しておくことが必要となります。訴訟行為について、交通通信手段の緩和の関係から法定期間の延長制度も存在しますが、宣告した裁判に対する上訴期間については、延長は認められていないため、期間制限に注意が必要となります。

(9) 被告人の召喚、勾引及び勾留(57条から98条)

 刑事訴訟法において、受訴裁判所の強制処分について列挙されています。

① 裁判所は、相当の猶予期間をおいて、被告人を召喚することができます(57条)。
 召喚とは、一定の期日に裁判所その他指定の場所に出頭を命じる強制処分です。
 証人、鑑定人、通訳人、翻訳人、身体検査を受ける者に対しても、召喚が認められています。

② 裁判所は、召喚に応じない場合や定まった住居を有しない場合には、勾引をすることができます(58条)。
 勾引とは、特定の人を一定の場所に強制的に引致することができる強制処分です。

③ 裁判所は、罪を犯したと疑うに足りる相当の理由を有するとき、住所不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡の恐れがあるときには、勾留をすることができます(60条)。
 勾留とは、被告人、被疑者を一定の施設に拘禁する強制処分です。

④ 接見、接見禁止命令
 勾留されている弁護人以外の者とも、法令の範囲内で、接見し、書類、物の授受をすることができます(80条)。
 しかし、逃亡、罪証隠滅のおそれがある場合には、接見等禁止命令が出され、接見を行うことができなくなる場合があります(81条)。

⑤ 勾留理由開示請求(82条)
 勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を求めることができます。公開の法廷での理由開示を求めることができ、自らの主張を裁判所で明らかにして調書に残したい場合や接見禁止が付いており家族とまったくの顔を合わすことができていない場合に法廷傍聴の形で顔を合わすこともありえます。

⑥ 勾留取消(87条)
 勾留の理由や必要性がなくなった場合に、決定により勾留の取消しを行うことができます。勾留による拘禁が不当に長くなったときにも勾留の取消しをしなければならないことがあります(91条)。

⑦ 保釈請求(90条)
 起訴後の勾留されている場合には、保釈金を入れることで、保釈を行うことができます。保釈には、主として権利保釈、裁量保釈とがあるため、それぞれの要件を満たすこと、保釈金を用意できる場合に手続きを取ることで身体解放を目指すことができるでしょう。

⑧ 勾留執行停止(95条)
 裁判所は、適当と認める場合には、勾留の執行を停止することができます。被告人が病気を患って手術が必要な場合や親族の葬儀に出席しなければならない場合には、一定の期間執行の取消しを求めることがあり得ます。

⑨ 裁判所は、必要があるとき、特定の場所に被告人の出頭、同行を命じることができます(68条)
 裁判所は、出頭命令・同行命令を出すことができ、正当な理由なくこれに応じないときには、強制的に引致する勾引をすることができます。

(10) 押収及び捜索(99条から127条)

 裁判所は、刑事訴訟法上で押収や捜索を行うことができます。
 押収とは、物の占有を取得し、占有を継続する強制処分を言います。
 押収には、
 ・差押え・提出命令(99)
 ・領置(101)
 が存在します。実務上は、裁判所が押収、捜索を行うというよりも捜査機関が行う場合に、手続きが準用されることが多いでしょう。

① 差押え
裁判所は、必要があるときは、証拠物又は募集すべき物と思慮するものは差押えをすることができます(99条)。差押えとは、物の占有を強制的に取得・継続する強制処分を言います。
 公判廷外において差押や捜索については、差押状、捜索状を発して行うことが必要であり、被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物又は捜索すべき場所、身体、物、有効期間などを記載しなければなりません。差押状は、検察官の指揮により、検察事務官、司法警察職員が執行を行い、執行を行うに当たって一定の有形力を行使する必要性がある場合には、必要な処分を行うことがなされます(111条)
 押収物で領置の必要性がないものは、被告事件の終結を待たないで決定でこれを還付しなければなりません(123条)。還付とは、押収処分を解いて、押収物をもとの所有者等本来そのものを受けるべき者に返還することを言います。
 また、盗品等譲受罪のような場合には、押収した物品が留置の必要栄があにもので、被害者に還付すべき理由が明らかなときに限り、検察官、被告人、弁護人の意見を聞き、決定で被害者への還付が行われることがあります(124条)。

② 郵便物等の押収
裁判所は、被告人から発し、被告に対して発せられた郵便物等の押収をすることができます(100条)

③ 領置
裁判所は、被告人その他の者が遺留した物又は所有者、所持者、保管者が任意に提出した物を領置ことができます(101条)。領置とは、被告人その他の者が遺留した物等の占有を取得する処分をいい、令状を必要としません。領置については、差押えと同様に占有を取得したあとは、還付があっても拒否をすることができます。

④ 捜索
裁判所は、必要があるときには、被告人の身体、物又は住居その他の場所を捜索することができます(102条)。捜索とは、一定の場所、物、人の身体について、物または人の発見を目的として行われる強制処分をいいます。
医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士、弁理士、公証人、宗教の職に在る者またはこれらの職に在った者は、業務上委託を受けたために保管し、所持する物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒否することができます(105条)。これを押収拒絶権といいます。
検察官、被告人、弁護人は、差押状、捜索状の執行に立ち会うことができ(113条)、公務所内等で差押え、捜索を行う場合には、責任者が立会いを行うこととなります(114条)。

(11)検証(128条から124条)

 裁判所は、事実発見のために、物、場所および人の身体等の存在、状態を五管の作用により認識する処分を行えます。これを検証といいます。
 検証には
・身体検査
・死体解剖
・墳墓の発掘
・物の破壊
など必要な処分をすることができます。
身体検査は強制的に行うことができ、身体検査を拒否した場合には、身体検査拒否罪が成立する場合があります。

(12)証人尋問(143条から164条)

 裁判所は、証人に対して、自己の体験した事実を供述してもらうために、証人尋問を行うことができます。証人は、出頭義務、宣誓、供述の義務を負います。証人尋問は、公判期日において公判廷で行われます。もっとも、裁判所は、一定の場合に証人への保護を置いています。
① 証人への付添い(157条の2)
証人の年齢、心身の状態、その他の事情を考慮して、証人が著しく不安や緊張を覚えるおそれがある場合には、緊張を緩和するのに適当な者が付添人となることができる場合があります。

② 証人尋問に際しての証人の遮蔽(157条の3)
 犯罪の性質、証人の年齢、心身の状況などを考慮して、被告人の面前において供述するときに圧迫を受け、精神の平穏を著しく害されるおそれがある場合には、相当と認めるとき、相互に相手の状況を認識することができないよう遮蔽を取ることができます。

③ ビデオリンク方式による証人尋問(157条の4)
 性犯罪の被害者等、傍聴人等のいる法廷で証言することが精神的圧迫を受けることがある場合には、証人を法廷の外の別室に在席してもらい、ビデオリンク方式により証人尋問を行うことができる場合があります。

 証人尋問においては、供述義務を負うのが原則ですが、一定の場合には、供述義務を免れる場合、証言拒否ができる場合が存在します。

① 公務員の職務上の秘密 (144条)
 公務員の職務上の秘密については、監督官庁の承諾が必要となります。もっとも、国の重大な利益を害する場合を除いて監督官庁は、承諾を拒むことはできません。

② 衆議院、参議院、内閣総理大臣、国務大臣 (145条)
 議員や大臣などは、所属院、内閣の承諾がなければ証人として尋問することができません。
 もっとも、国の重大な利益を害する場合を除き、承諾を拒むことはできません。

③ 自己の刑事責任の場合の証言拒絶(146条)
 自己が刑事訴追を受けるおそれがあるときには、証言を拒絶することができます。証言拒絶権は、尋問禁止がなされるわけではないため、出頭、宣誓を拒むことはできず、個々の質問に対して証言を拒絶することとなります。証言を拒絶する場合には、拒む理由を示されなければなりません。

④ 近親者の刑事責任と証言拒絶(147条)
 配偶者、3親等内の血族、2親等内の姻族、後見院、後見監督人、保佐人について刑事訴追を受け、有罪判決を受けるおそれがあるときには証言を拒絶することができます。

⑤ 業務上秘密と証言拒絶(148条)
 医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士、弁理士、公証人、宗教の職に在る者は、業務上委託を受けたために知り得た事実であり、他人の秘密に該当するものについては、証言を拒むことができます。
 もっとも、秘密事項について、本人が承諾した場合や証言拒絶権が権利濫用と認められる場合には、証言を拒むことはできません。

(13)鑑定(165条から174条)

 鑑定とは、裁判所が裁判上必要な経験などを知識経験を有するものに対して、鑑定事項を伝え、鑑定事項について法則や法則を適用して得られた結果の報告を求めるものです。鑑定人および鑑定書は、証拠資料となります。
 被告人の責任能力、DNA鑑定、薬物鑑定、筆跡鑑定などが行われることもあり得るでしょう。
 裁判所は、当事者の請求により鑑定の決定を行い、裁判所が学識経験のある者に対して鑑定を命じることとなります。

(14)通訳及び翻訳(175条から178条)

 日本語が通じない場合には、通訳人に通訳をさせなければなりません(175条)。
 耳が聞こえない者や口のきけない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳をさせる、国語でない文字である場合には翻訳をさせるなど適切な防御権を行使できるよう規定が設けられています。

(15)証拠保全(179条から180条)

 被疑者・被告人側に強制的な証拠の収取・保全手段が設けられています。これは、捜査機関が強制的に証拠を収集・保全できるのに対して、被疑者・被告人側には権限がないため、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときには、第1回公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問、鑑定の処分を請求することができることが定められています。
 証拠を使用することが困難な事情があるとは、証拠調べをすることが困難となる場合、本来の証明力を発揮するのが困難になる場合、物証・書証などの買い残が想定される場合などがあります。

(16)訴訟費用(181条から188条)

 刑事手続においても訴訟費用が掛かってきます。証人に出廷に関する日当、鑑定料などです。刑の言い渡しをする場合には、被告人の訴訟費用の負担をさせることがあります。もっとも、貧困のために訴訟費用を納付することができないことが明らかである場合には、訴訟費用の負担をさせない事案も存在します(181条1項)。国選弁護事件などの場合には、訴訟費用の負担が命じられないことも一定数存在します。

(17)費用の補償(188条の2から188条の7)

 無罪判決が確定した場合には、費用補償の制度があります。被告人は、公訴が提起された場合には、相当額の費用の支出を余儀なくされるため、財産上の損害を国の責任で補償するものです。無罪費用補償制度は無罪判決が出されてから6か月以内にしなければなりません。
 なお、無罪判決を受けた事件において、逮捕、勾留されていた期間がある場合には、刑事補償法により、期間×日当の補償金額を受けることができます(刑事補償法)。

4 第一審のルールについて

 刑事訴訟法では、捜査が開始されてから第一審のルールを定め、真実発見と人権尊重の調整を図っています。

(1)捜査(189条から246条)


 捜査とは、捜査機関が、犯罪があると思慮するときに、犯人及び犯罪の証拠を発見し、収取、保全する手続きを言います。司法警察職員は、犯罪があると思慮するときには、犯人及び証拠を捜査するもととされます。
司法警察職員には、
・司法警察員
・司法巡査
に分かれており、令状の請求、弁解録取、送致手続き、告訴、告発、自首の受理、押収物の換価・還付など重要な権利利益がかかわる処分については、司法警察員の権限とされています。
 森林、鉄道、その他特別の事項については海上保安官、労働基準監督官、麻薬取締官、自衛隊の刑務官は、特別司法警察職員として、捜査権限などが定められています。

① 任意捜査の原則(197条)
 捜査の目的を達するために、必要な捜査を行うため、強制処分によらない捜査を行うべきと解されています。
 任意捜査はであっても、個人の自由が制限されるおそれがあるため、適正手続きとの関係から、目的の正当性、捜査の必要性、緊急性、手段の相当性から任意捜査の限界を超えることは許されないこととなります。

② 強制処分法定主義
 強制処分とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等の制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものをいいます。強制処分は法律に規定がある場合には行使をすることができません。

 訓示規程ではありますが、検察官、検察事務官及び司法警察職員、弁護人は被疑者はその他の者の名誉を害しないように注意し、かつ、捜査の妨げにならないように注意をしなければなりません(196条)。

(2)逮捕手続

 刑事訴訟法では、任意で対応できる場合には、被疑者の出頭要求、取調べを行うことができる規定が設けられています(198条)
 一方で、任意捜査では対応が困難で、逃亡や罪証隠滅のおそれがあるなど逮捕の必要性がある場合には逮捕手続きが設けられています。
 逮捕とは、被疑者に最初に行われる強制的な身体拘束処分をいい、短期間(72時間)の留置がなされます。

① 通常逮捕
 通常逮捕は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由と逃亡又は罪証隠滅などの逮捕必要性がある場合に、裁判官が発する令状により逮捕を行われることとなります。(199条)。

② 現行犯逮捕
 現に罪を行い、現に罪を行い終わった者については、嫌疑が明白であるために、令状なく逮捕をすることができます(212条)。現行犯逮捕を行うためには、犯罪と犯人が明白であること、犯罪の現行性・時間的場所的接着性、逮捕の必要性があることが要件となります。
 準現行犯逮捕として、犯人と追呼されているとき、盗品等又は犯罪の用に供したと思われる凶器その他の物を所持していたとき、身体又は被服に犯罪の顕著な証拠があるとき、誰何されて逃亡しようとすることといった要件があったときに、準現行犯逮捕がなされます。
 現行犯人は誰でも逮捕状なくして逮捕することができ(213条)、私人により逮捕がなされた場合には、直ちに、地方検察庁、区検察庁の検察官、司法警察職員に対して引き渡すことが必要となります(214条)。司法巡査に引き渡した場合は、司法警察員に引致することが必要となります(215条)。

③ 緊急逮捕
 一定の重大犯罪の場合には、令状発行を待たず逮捕ができます。
・死刑又は無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁固に当たる罪を犯したこと(犯罪の重大性)
・疑るに足りる十分な理由がある場合(嫌疑の充分性)
・急速を要し、裁判官の逮捕増を求めることができないとき(逮捕の緊急性)
 の要件があった場合には、無令状での逮捕をすることができます。緊急逮捕をすることができるのは、検察官、検察事務官、司法警察職員が逮捕権限を有します。逮捕後には、直ちに逮捕状を求める手続きをしなければなりません。

・再逮捕について
 再逮捕には、別の被疑事実について再逮捕をするもの、同一の被疑事実について再逮捕をするものがあります。
 別の引き事実については再逮捕を行うことができます。
 一方で、同一の被疑事実については再逮捕は原則としてできません。
 これは、刑事訴訟法199条3項は、同一の犯罪事実について逮捕は原則として1回しか許されないという逮捕一回性の原則(一罪一逮捕・一勾留の原則)が取られています。そして、同じ被疑事実について、逮捕勾留を繰り返すことはできないとして再逮捕・再勾留の禁止の原則が定められています。
 一方で、同一の被疑事実であっても、再逮捕が一切許されないわけではありません。新証拠や逃亡・罪証隠滅のおそれなどの新事情の出現により再捜査の必要性があり、犯罪の重大性その他の事情から被疑者の利益と対比してもやむ得ない場合であって、逮捕の不当な蒸し返しといえないときは、再逮捕が許されることとなります。

・別件逮捕・別件勾留について
 別件逮捕・勾留とは、逮捕・勾留要件を具備していない本件について取調べる目的で、逮捕・勾留要件を具備している別件でことされに逮捕・勾留をする場合をいいます。本件について、要件が具備していない場合には、別件で逮捕・勾留することは違法となります。
 別件逮捕・勾留がなされた場合に取得された証拠については違法収集排除法則や自白法則により証拠能力が否定される場合があります。

(3)勾留


 起訴前勾留として、勾留の請求を受けた裁判官は、被疑者勾留をすることができることを定めています。勾留(60条)の規定は、被疑者勾留でも準用(207条)がなされています。
 被疑者勾留を行う場合には、逮捕前置主義が取られており、まず48時間ないし72時間の短期間の身体拘束を認め、その後に10日間の長期間の勾留を認める手続きとなっています。これを逮捕前置主義といいます。逮捕→勾留を行うためには、同一の被疑事実であることが必要となります。逮捕前置主義があるため、違法な逮捕に引き続く勾留請求は許されませんが、緊急逮捕の理由の必要性があった場合で時間内に勾留請求がなされた場合には勾留請求が認められることとなります。
 裁判所は、勾留の理由と勾留の必要性がある場合に、勾留決定を出すこととなります。
 勾留は原則10日間、延長された場合には、20日間の勾留がなされます。

 勾留を争っていく手段としては、
・勾留に対する準抗告(429条1項)
・勾留の取消(207条、87条)
・勾留の執行停止(207条、95条)
・勾留理由開示請求(207条、82条)
 が考えられます。

(4)令状による差押え・捜索・検証


 検察官、検察事務官、司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、差押令状、捜索令状、検証令状などにより強制の処分を行うことができます。
 差押えとは、他人の占有を排除して物を取得する強制処分をいい、差押令状に被疑者の氏名、罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所、などの条件を定めることができます。

(5)令状によらない差押え・捜索・検証


・逮捕する場合や現行犯人を逮捕する場合には、証拠が存在する蓋然性が高く、逮捕者の身体の安全を図る必要があるとして、令状がなくとも差押え・捜索・検証を行うことができます。

(6)捜査に関連する規定


・電信通信の傍受(222条の2)
 通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制処分については、通信傍受法により規定がなされています。対象犯罪は、薬物関連犯罪、銃器関連犯罪、集団密航の罪、組織的な犯罪に限定されています。

・第三者の任意出頭・取調べ、鑑定、通訳、翻訳の嘱託
 検察官、検察事務官、司法警察職員について犯罪の捜査をするについて必要があるときは被害者以外の者に出頭、取調べ、鑑定、通訳、翻訳の嘱託、鑑定留置の請求などを行うことができます(223条、224条)。

・第1回公判期日前の証人尋問請求
 犯罪の捜査に関する知識を有すると明らかに認められるものが、出頭、供述を拒む場合には、第1回公判期日前に検察官は裁判官に証人尋問の請求をすることができます(226条、227条、228条)

・検視(229条)
 変死者、変死の疑いのある死体があるときは、検察官は検視を行います。代行検視などを処分させることができます。

(7)告訴・告発

・告訴とは、告訴権者が捜査機関に対し、犯罪の事実を申告し、犯罪の訴追を求める意思表示をいいます。
・告発とは、告訴権者及び犯人以外の者が捜査機関に対して、犯罪事実に対して、犯罪事実の申告し、その訴追を求める意思表示をいいます。
・親告罪の告訴は、犯人を知った日から6か月を経過したときはできないこととなります。

(8)自首

・自首とは、犯人が捜査機関に対し、自己の犯罪事実を申告してその処分にゆだねる意思表示を言います(245)。

(9)公訴(247条から270条)

公訴とは、特定の刑事事件について裁判所の審判を求める意思表示を言います。公訴は検察官が行うことが定められており、検察官は、犯人の性格、年齢、境遇及び情状並びに犯罪後の情況により訴追をするかどうかを決定するという起訴便宜主義が取られています(248条)。
検察官は、刑法上の犯罪に該当する行為があったとしても、起訴猶予処分とすることができます。

(10)公訴時効期間

 刑事訴訟法250条には、公訴時効が定められています。公訴時効とは、一定の期間が経過することで公訴提起ができなくなるものであり、一定期間の事実状態が継続している場合には証拠が散逸し、真実の発見、適切な防御権の行使が困難となることから一定の期間経過により刑罰権の発動を行うことはできなくなります。
 時効の起算点は、犯罪行為が終わったときから進行します。共犯の場合には、最終の行為が終わったときから、すべての共犯に対して時効の期間を起算されます(253条)。
 時効期間は、犯罪事実の法定刑を基準として算出がなされます。科刑上一罪の場合には、最も重い刑に統一的に決定することとなります。公訴時効が完成すると公訴権が消滅し、公訴を提起することはできず、面所判決によって終了します(337条)

① 時効は、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。
・ 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については     30年
・ 長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪については  20年
・ 前2号に掲げる罪以外の罪については       10年

② 時効は、上記以外では、次に掲げる期間を経過することによって完成する。
・ 死刑に当たる罪については            25年
・ 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については     15年
・ 長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については10年
・ 長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については 7年
・ 長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については  5年
・ 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年
・ 拘留又は科料に当たる罪については         1年

 犯人が国外にいる場合や起訴状の謄本等の送達、略式命令の告知ができないときには、時効は進行が停止されます(255条)。

(11)起訴状の記載すべき事項


起訴状には、被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項、公訴事実、罪名が記載されます。刑事裁判は、予断を排除するために、起訴状一本主義が取られており、公訴の提起については、起訴状のみを裁判所に提出することとなります。

(12)公判

 公判とは、公訴の提起のあった被告事件について審理裁判を行う手続きをいいます。
 公判では下記のような原則がとられています。

① 当事者主義:刑事訴訟法は適正手続を確保するために、訴訟追行を当事者にゆだねることを原則としています。

② 公開主義:刑事事件の被告人に対しては、公開の審判を受ける権利(憲法37条)が保障されており、公開法廷で審理を行うことで、司法制度が公平になされているかを国民の監視のもとにおかれることになっています。

③ 弁論主義:当事者の主張、立証を踏まえて、当事者の弁論から判断がなされます。

④ 口頭主義:訴訟資料は、口頭で裁判所に提供し、裁判所がこれに基づいて判断がなされることとなります。

⑤ 直接主義:法廷で裁判官などが直接取調べられた証拠に基づいて判断をすることが原則となっています。伝聞法則については、例外的な取り扱いを受けます。

・裁判員裁判では、連日審理による集中審理の実現、直接主義、口頭主義の実質化を図る措置が取られています。

(13)公判準備及び公判手続

 公判準備及び公判手続においては、

・公判準備に関する規定
 起訴状の送達(271条)、弁護人選任権の告知(272条)、裁判長は公判期日の指定し、被告人の召喚、検察官、弁護人,補佐人の通知(273条)がなされます。
 公判期日の変更は、変更を必要する事由として、やむを得ない事由が必要となります。やむを得ない事由は、公判期日不変更の原則の例外として認めてよいかどうかを基準として、期日変更による利益と不利益を比較考量して決定することとなります。弁護人が差支えの場合には、裁判所がやむを得ない事由があると認めるときは変更しなければならないですが、私選弁護人差支えの処置(規則179条の5)、国選弁護人差支えの処置(規則179条の6)が規則で定められています。
 公判期日において召喚を受けた者が病気その他の事由によって出頭することができないときは、医師の診断書を提出しなければなりません(278条)
 裁判所は、必要と認めるときは、検察官又は弁護人に対し、公判準備、公判期日に出頭し、在廷の命令をすることができます(278条の2)
 裁判所は、検察官、被告人、弁護人の請求、職権による公務所、公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができます(279条)。
 被告人、弁護人は、被告事件の審理準備のために、閲覧、謄写を行うことができ、適正な管理、複製等の目的外利用は禁止がなされています(281条の3、281条の4)。弁護人は、身近らに開示された証拠の副生物を担当する被告事件との審理の準備とは無関係の他の共犯者の弁護人に示すことや民事訴訟で使用することはできません。

・継続審理に関する規定
 裁判所は、審理が2日以上を要する事件については、できる限り、連日改定し、継続して審理をすることとなります。裁判員裁判対象事、公判前手続に付された事件については、争点及び争点整理をおこなった 場合には、審理時間を見積もるなどして審理計画を立て(316条の5⑧)、それに必要な期日を一括して指定するなど(316条の5⑫)して審理計画に従って公判審理を進める必要があります。

・公判廷、裁判官、訴訟関係人に関する規定
 公判期日における取調(判決宣告を除いた公判期日に行うすべての審理手続)は、公判廷で行われなければなりません(282条)。公判廷においては被告人の身体を拘束してはなりません(287条)。被告人は、裁判長の許可がなければ退廷をすることはできず、裁判長は、被告人を在廷させるため、法廷の秩序を維持するために相当な処分をすることができます(288条)。公開の法廷において被害者特定事項の秘匿を行う旨の決定をすることができます(290条の2)。被害者特定事項とは、氏名、住所など、その者が当該事件の被害者であることを特定させることとなる事項をいい、具体的な事実関係によって異なりますが、被害者の通勤先、通学先、配偶者、父母の氏名等情報を言います。

・公判手続きに関する規定が設けられています。

(14)公判手続の流れ(291条から316条)


 公判手続きの流れは下記のような流れを辿ります。

① 冒頭手続
・人定質問(刑事訴訟法規則196条)
・起訴状朗読(291条1項)
・黙秘権の告知(291条3項)
・被告人、弁護人の事件についての陳述(291条2項)
        ▽
② 証拠調手続き
・検察官冒頭陳述(296条)
・検察官の立証
・被告人・弁護人の立証
        ▽
③ 弁論手続
・検察官の論告・求刑(293条1項)
・弁護人の最終弁論(293条2項)
・被告人の最終弁論(293条2項)
        ▽
④ 判決手続き
・有罪判決 (333条、334条)
・無罪判決 (336条)
・管轄違い (329条)
・控訴棄却の判決(338条)
・控訴棄却の決定(339条)
・免訴の判決(337条)
          ▽
⑤ 上訴
・控訴 (372条)
・上告 (405条)
・再審 
・非常上告
          ▽
⑥ 刑の執行

【冒頭手続】
 冒頭手続は、①人定質問、②起訴状の朗読、③黙秘権等の告知、④被告人に関する順に行われることになります。人定質問では、起訴状に記載されている氏名、生年月日、職業、住居、本籍を尋ねることとなります(規則196条)。
 起訴状は全文を朗読しなければならず、公訴事実、罪名、罰条のすべてを朗読します(291条)。
 黙秘権の告知として、終始沈黙することができること、質問に対し陳述を拒むことができること、陳述をすることもできること、陳述をした場合には、自己に有利にも、不利にも証拠となるべきことと告知されます(規則197条1項)。
 被告人、弁護人の双方から、起訴状記載の事実を認めるのか、事実でないことがあるのかの陳述がなされることとなります(291条)。

〇 簡易公判手続の決定
 被告人が冒頭手続に際して、起訴状に記載された訴因で有罪である旨の陳述をした場合には検察官、被告人、弁護人の意見を聞き、簡易公判手続の決定をすることができます。
 法定刑として、死刑または無期もしくは短期1年以上の懲役、禁固に当たらないことが必要となります。
 簡易公判手続による場合には、①伝聞法則が不適用となり、②証拠調べ手続きに適当とする方法にて行われ(307条の2)、判決書には簡易的な記載で足りることになります。

(15)証拠調べ手続き

・証拠調べは、冒頭手続が終わったあとではなければ、行われません。
 もっとも、公判前整理手続については、争点及び証拠の整理を行う手続は、冒頭手続き前でも行うことができます。
・証拠調べ手続きでは、検察官の冒頭陳述が行われます(296条)。冒頭陳述は、「証拠により証明すべき事実」として、公訴事実を構成する事実と情状に関する事実を述べることになります。
 裁判所の許可を得ることで、被告人、弁護人も冒頭陳述を行うことができます(規則198条)。裁判員裁判の場合には、裁判員法55条により、公判前整理手続きにおける争点及び証拠の整理の結果に基づき、証拠との関係を具体的に明示しなければならず、裁判員裁判対象事件では、被告人、弁護人が冒頭陳述を行うことになります。
 裁判官、被告人、弁護人は証拠調を請求することができます(298条)。
 証拠調べ請求について、検察官、被告人、弁護人が証人、鑑定人、通訳人、翻訳人の尋問を請求するについては、あらかじめ、相手方に氏名、住居を知る機会が与えられなければなりません(299条)。安全が脅かされない配慮する義務(299条の2)や被害者特定事項の秘匿の要請がなされることがあります(299条の3)。
証拠調べ請求に対して証拠調べをする決定、却下する決定を行います。証拠決定をするにあたっては、相手方または当事者の意見を聞かなければなりません(規則190条)。証拠意見において証拠能力の有無、請求の適法性などの意見が述べられます。証拠決定に対しては、法令違反を理由として異議の申立てができます(309条)。裁判所は、証拠調の決定をするについて必要があると認めるときは訴訟関係人に証拠書類または証拠物の提示を命じることができます(規則192条)。
証拠調べの範囲、順次、方法の決定、変更(297条)がなされます。
 証拠調べの実施については、
① 証人等     尋問(304条)
② 証拠書類    朗読(305条)、要旨の告知(規則203条の2)
③ 証拠物     提示(306条)
④ 証拠物たる書面 朗読、展示(307条)
 尋問は、交互尋問方式において行われ、
・主尋問 :立証すべき事項及びこれに関連する事項、証人の供述の証明力を争うため必要な事項について尋問をすることができます(規則199条の3)。主尋問では、誘導尋問をすることはできません(規則199条の3第3項)。
ただし、
① 証人の身分、経歴、交友関係等の実質的な尋問に入るに先立明らかにする必要がある準備的事項に関するとき
② 訴訟関係人に争いのないことを明らかな事項に関するとき
③ 証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するために必要があるとき
④ 証人が主尋問者に対して敵意又は反感を示すとき
⑤ 証人が証言を避けようとする事項
⑥ 証人が前の供述と相反するか、実質的に異なる供述をした場合
⑦ その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき
・書面または物に監視成立、同一性を証人に尋問することができる場合(規則199条の10)
・記憶喚起のための書面等の提示(規則199条の11)
・供述を明確にするための図面等の利用(規則199条の12)
など、一定の措置をとることができる場合があります。
・反対尋問:反対尋問とは、主尋問に現れた事項又はこれに関連する事項並びに証人の供述の証明力を争うために必要な事項について行うものです(規則199条の4)。反対尋問では、誘導尋問を行うことができます。
・再主尋問:反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項について行われます(規則199条の7)。
が行われます。
 尋問においては、できる限り個別的かつ具体的で簡潔な尋問によらなければならず、下記のような尋問は(②~④正当な理由がある場合を除いて)、許されません。
① 威嚇的又は侮辱的な尋問(199条の13第2項1号)
② 既にした尋問と重複する尋問(2号)
③ 意見を求め又は議論にわたる尋問(3号)
④ 証人が直接経験しなかった事実についての尋問(4号)
証人等の尋問をする旨の決定があったときには、取調べを請求した訴訟関係人は、期日に出頭するように努めなければなりません(規則191条の2)。
・証拠調べに対する異議の申立て、裁判長の処分に対する異議の申立て(309条)。
 証拠調べについては、法令の違反があること、相当でないことをすることができます。

【弁論手続】
・証拠調が終わった後、検察官は、事実及び法律の適用について意見を陳述しなければなりません(239条)。
・弁護人、被告人も意見陳述を行うこととなります。

(16)被害者等の意見陳述制度(292条の2)


 被害者等の意見陳述として、被害者等は、被害に関する心情その他の被告事件に関する意見の陳述の申出があるときには公判期日においてその意見を陳述させるものとしています。申述の申出は、予め検察官にし、検察官は意見を付して裁判所に通知を行います。陳述を行う場合には、相当でない場合を除いて口頭での陳述をさせなければなりません。証拠調べ終了後に行われ、遮蔽、ビデオリングで行うことも可能です。意見陳述であるため、犯罪事実の認定の証拠とすることはできず、量刑の一資料とすることができることとなります。

(17)訴因変更


 裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度にいて、起訴状の記載された訴因、罰条、変更を許されることとなります。
 公訴事実の同一性は、公訴事実が単一であり、かつ、同一である場合に認められると解されています。
 単一性は、犯人が単一であり、かつ、犯罪が単一のときに認められる場合をいい、実体法上の罪数を基準に判断されます。
 同一性は、基本的事実の共通性を基礎としつつ、非共通の関係により判断されます。

(18)公判前整理手続(316条の2 から 316条の24)

 公判前整理手続とは、争点に集中した充実した審理を連日的に行うために、事前に明確な審理計画をたたえるために公判期日に詐欺だって、公訴事実及び重要な情状事実の存否等について争点を明確にし、公判で取り調べるべき証拠を選定し、その取調べの順序、方法を決定し公判期日の予定、証人の呼出し等の準備を行うこととなります。

・公判前整理手続の概要

① 裁判所は、事件を公判前整理手続に付することの決定(316条の2)
 公判前整理手続では、弁護人は必要的ものとなります(316条の4)
 公判前整理手続きでは、
・訴因又は罰条を明確にさせること
・訴因または罰条の追加、撤回、変更を許すこと
・公判期日において予定している主張を明らかにすること
・証拠調べの請求をさせること
・証拠について立証趣旨、尋問事項等を明らかとすること
・証拠調べの決定、却下をすること
・決定した証拠について、取調べの順序、方法を定めること
・証拠調べに関する異議の申立て
・証拠開示に関する裁定
・被害者参加による被告事件の手続きへの参加の申出の決定
・公判期日を定め、公判手続きの進行上必要な事項を定めること
 が公判前整理手続内容となります。
 公判前整理手続では、検察官、弁護人が出席し(316条の7)、被告人も出頭ができます(316条の9)。書記官が立ち会わなければなりません(316条の12)。

② 検察官による証明予定事実の提示(316条の13)
 証拠請求(316条の13第2項)
 弁護人が請求したときは,検察官が保管する証拠の一覧表の交付をしなければならないとされています(法316条の13第2項)。
 請求証拠については証拠開示が行われます(316条の14)
 被告人、弁護人は同意をするのかどうか、取調べの請求に異議がないかどうかの意見表明を行います(316条の16)

③ 類型証拠開示請求(316条の15)
一定の類型に該当する証拠について、重要性、開示の相当性の判断を行い、証拠開示が行われます。
一定の類型とは下記のようなものです。
・証拠物
・裁判所、裁判官の検証調書
・捜査機関の検証調書等
・証言予定者の供述録取書等
・参考人の供述録取書等
・被告人の供述録取書等
・取調べ状況記録書面

④ 被告人の主張の明示、証拠調べ(316条の17)
 被告人側の証明予定事実等の明示および証明予定事実の証拠に用いる証拠の取調べを請求することとなります。被告人、弁護人は、取調べを請求した証拠の開示を行うこととなります(316条の18)。
 検察官は、同意をするのかどうか、請求に異議がないかどうかの意見表明を行います(316条の19)。

⑤ 被告人・弁護人の主張に関連する証拠の開示(316条の20)
 被告人側は、検察官に主張に関連すると認められる証拠について、証拠を識別するに足りる事項、主張との関連性その他の開示が必要である理由を明示して、開示が相当と認められる場合に、証拠の開示が認められることとなります。開示が相当として認められるかどうかについては、被告人の防御の準備のためにすることとなります。

⑥ 証明予定事項の追加、変更等(316条の21、22)
 証拠開示などを経て、争点および証拠の整理が終わり、証明予定事実を追加、変更などを行われます。
 被告人、弁護人により証明予定事実の主張の追加、変更などがなされます。

⑦ 整理結果の確認(316条の24)
 裁判所は、公判前整理手続を終了するに当たり、検察官及び被告人、弁護人との間で、事件の争点及び証拠の整理の結果を確認することとなります。

(公判前整理手続終了後の証拠知調べの請求の制限)
 公判前整理手続、期日間整理手続にふされた事件についいては、やむを得ない事由によって各手続きで請求することができなかったものを除き、手続が終了した場合には証拠調べをすることはできません(316条の32)。やむを得ない事由としては、①証拠は存在していたが、証拠の存在を知らなかった場合、②証人の所在不明等の理由により証拠調べができなかった場合、③証拠の存否を知っており、争点整理の状況から、証拠調べ請求の必要がないと考えられ、必要がないことの判断に相当な理由があったことが必要となるでしょう。

(証拠開示に関する裁定)
 裁判所は、必要な場合の証拠開示命令、証拠の標目を記載した一覧表の提示命令が規定されています(316条の25,26)

(19) 被害者参加(316条の33から39)

 被害者、被害者から委託を受けた弁護士は、被告事件の手続きへの参加の申出を検察官に行い、裁判所は、被告人、弁護人の意見を聞いて、犯罪の性質、被告人との関係などの事情を考慮し、相当と認めるときは、被害者参加制度を利用することができます。
 被害者参加制度の対象事件については一定の範囲に限定されています。
① 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪
  殺人罪、傷害致死罪など
② 刑法176条から第179条の罪
  強制わいせつ、強制性交等、準強制わいせつ及び準強制性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等
 刑法211条、220条、224条から227条の罪
 業務上過失致死傷等、逮捕及び監禁、略取、誘拐及び人身売買の罪
③ 前号に掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪
  集団強姦罪、強盗強姦罪、逮捕監禁罪の犯罪行為を含む特別公務員職権濫用罪などです。④ 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律4条、5条、6条
 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪、過失運転致死傷、無免許運転による加重
⑤ 第1号から第3号までに掲げる罪の未遂罪

 被害者参加人等は公判期日への出席、検察官の権限行使に関する被害者参加人等の意見の陳述、被害者参加人等による証人尋問、被告人に対する質問、事実・法律の適用に関する意見の陳述を行うことができます。
 被害者参加人への付添人、遮蔽措置はあります。積極的に訴訟への参加を行うためビデオリンク方式まで認められていません。

(20) 証拠(317条から328条)

 刑事訴訟では、事実認定を行うために、証拠によってなさなければなりません。
 証拠には、様々な性質や種類があるため、これらを整理しておくとよいでしょう。
 証拠の種類には
ア 直接証拠と間接証拠
・直接証拠:直接事実は、争点である要証事実を直接証明することができる証拠です。
・間接証拠:間接証拠は、争点である要証事実を直接証明をすることはできませんが、これらを推認させる間接事実を証明させる証拠(情況証拠)をいいます。
 犯罪を直接立証する事実としては、目撃者の犯行目撃証拠などがあります。直接証拠について、信用性が肯定されると、要証事実を立証することができることになります。

イ 供述証拠と非供述証拠
・供述証拠 :言葉によって表現された供述を証拠として用いる場合
・非供述証拠:犯罪の痕跡が人の知覚以外の物に残った場合
をいいます。供述調書には、それが法廷に到達するまでの間に、人の知覚、記憶、叙述、表現といった段階を経る中で誤りが介入おそれがあります。そのため、供述証書については、法廷において知覚、記憶、叙述の各過程において誤りが存在しないかを客観的証拠や反対尋問、供述態度からチェックをしなければなりません。
 そこで、伝聞法則排除法則の原則を定め、知覚、記憶、叙述の誤りをチェックすることができない供述証拠については、事実認定の基礎となる証拠として用いることができないことを原則としています。もっとも、被告人が、反対尋問等によるチェックの必要性がないなどとして伝聞証拠を利用することに同意をした場合や反対尋問によるチェックを経ずとも一定の類型的信用性がある証拠については、証拠能力が肯定されています。

ウ 証拠能力と証明力
・証拠能力:証拠能力とは、厳格な証明の資料として用いることができる証拠の法律上の資格をいいます。証拠能力のない証拠は争点を拡散してしまうこと、裁判官に誤導による心証を与える危険性があることから、事実認定の基礎に用いることができません。
 証拠能力があるかどうかは、
① 自然的関連性 : 証拠が要証事実について最低限の関連性を有していること
② 法律的関連性 : 証明力を誤らせるような事実がないこと(伝聞法則、自白の任意性)
③ 証拠禁止にあたらないこと:違法収集証拠排除法則に該当しないこと
 が必要となります。
・証明力:証拠がどれほど事実認定の力を持っているかであり、自由心証主義のもと裁判官の裁量にゆだねられています。

【自白の証拠能力】


 自白とは、自らの犯罪事実の主要な部分を認める被告人の供述を言います。
 自白については、犯罪立証において非常に大きな意味をもつと同時に、多くの冤罪を引き起こしてきたとの反省に立ち返り、強制、拷問、脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白、その他任意にされたことに疑いのある自白については、証拠能力が否定されています。
 現代は、直接的に拷問や脅迫により自白に至るケースはあまり見られないでしょうが、両手錠等をされたままの取調べにより任意になされたものでないとの疑いが乗じるものや自白をすれば執行猶予となるなど約束や偽計を用いた自白がなされる危険性はなお存在します。
 自白の任意性に争いがある場合には、被告人側で任意性を争う具体的事実の主張、立証を行い、その事実から任意性に影響を及ぼすと認められた場合には、検察官から任意性について立証がなされる方式が取られます。

〇 補強法則
 自白は証拠として過大に取られやすいことから、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされません(319条2項)。これは、補強法則と呼ばれ、自白単独では、要証事実を立証することはできず、人証、物証、書証など何らかの自白から独立した証拠により自白の真実性が担保される証拠が必要となります。

【伝聞証拠廃除法則】


 伝聞証拠とは、公判期日における供述に代わる書面や公判期日外における他の者の供述を内容とする供述であり、要証事実との関係で真実性が問題となるものというと解されます。伝聞証拠は、法廷における知覚、記憶、叙述の各過程に対して、宣誓と偽証罪による処罰の予告、反対尋問による真実性のチェック、裁判所の供述態度の観察といった誤りがないかの過程を経ないため、伝聞例外を満たさない限りは、伝聞証拠を原則として証拠として用いることはできません。
 伝聞例外については、法律上の要件を満たすことが必要となります。
① 被告人以外の者の供述調書
・裁判官面前調書
・検察官面前調書
・司法警察員に対する供述証書、被害届、捜査機関報告書等
・検察官、検察事務官、司法警察職員の検証の結果を記載した書面
・鑑定の経過および結果を記載した書面
② 被告人の供述調書
③ 戸籍謄本、商業帳簿、特に信用すべき状況の下に作成された書面
④ 再伝聞の調書
⑤ 当事者からの同意を得た場合
⑥ 弾劾証拠
 などは、一定の要件のもとで証拠能力が認められることがあります。

【違法収集証拠廃除法則】


 証拠収集過程に違法捜査があった場合に証拠能力を認めることは、将来の違法捜査を抑制することができず、違法に収集された証拠を利用することは司法への信頼を損なう危険性を伴います。そこで、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として採用することが将来における違法捜査抑制の見地から相当でない場合には、その証拠能力が否定されると解されます。

(21) 公判の裁判(329条から350条)


 判決には、刑事訴訟法上、下記のような規定が設けられています。

① 管轄違いの判決(329条)
 被告事件に裁判所に管轄が存在しない場合には、判決で管轄違の言い渡しがなされます。

② 刑の免除の判決(334条)
 刑の免除とは、有罪ではあるが、刑を科さないという裁判を言います。
・刑法43条但書には、中止犯の場合には、刑の減刑、免除する場合
・刑法36条2項には、過剰防衛の場合には、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができると規定が存在します。
・刑法37条1項但書には、緊急避難において、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができるとの規定があります。
・刑法105条、犯人蔵匿、証拠隠滅等において、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができるとの規定。
・刑法113条但書、現住建造物放火、非現住建造物放火目的の予備罪は2年以下の懲役に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができるとされます。

③ 有罪の判決(335条)
 有罪の言い渡しでは、
・罪となるべき事実
・証拠の標目
・法令の適用
 について示されることとなります。
 また、法律上の犯罪の成立を妨げる理由または刑の加重減免の理由となる事実が主張された場合には、これらが示されます。
 犯罪の証明があったときには、判決で刑の言い渡しを行い、刑の執行猶予は、刑の言い渡しと同時に、判決でその言い渡しをしなければなりません(333条)。
 犯罪の証明があったときとは、合理的疑いを差し挟む余地のない程度の立証があることが必要です。犯罪の証明があったといえないときには、疑わしきは被告人の利益という原則のもとで、無罪の言渡し(336条)をしなければなりません。

④ 無罪の判決(336条)。
 罪とならない事実、法律上犯罪の成立を妨げる理由があるときには、無罪を言い渡すべきものとなります。

⑤ 免訴の判決(337条)。
 被告人を免訴するとの判決がなされることがありえます。
・既に確定判決を経ていた場合には、一事不再理効により免訴判決がなされます。
・犯罪後の法令により刑が廃除された場合
・大赦があった場合
・時効が完成した場合
があります。

⑥ 公訴棄却の判決
 公訴棄却は、裁判での訴訟条件が欠けていることを理由に、公訴を不適法の棄却をするものです。訴訟条件とは、訴訟手続を有効に成立さえ、これを存在させるために条件をいいます。
・被告人に裁判権を有しないとき
 治外法権をもつ外交官、外国軍艦内部など裁判権を有しない場合があります。
・340条違反の再起訴
 公訴取消しによる公訴棄却決定が確定した場合、公訴取消後に犯罪事実につき新たに重要な証拠が発見されない限り、同一事件について公訴を提起できません。
・再起訴の禁止に違反して公訴が提起された場合
 二重起訴の禁止として、公訴提起があった事件について、さらに同一裁判所に公訴が提起されたときには、公訴棄却の判決が言い渡されます。
・公訴提起の手続きがその規定に違反して無効である場合
 起訴状の方式違反、告訴告発の欠如、少年法違反の公訴提起、交通反則者に対する告知・通告手続の瑕疵、公訴権の濫用の場合などを言います。
 また、法人が存在しなくなったときなど、訴訟条件を欠くことが明らかな場合には、口頭弁論を経ないで、公訴棄却決定がなされます(339条)。

〇 禁固以上の刑の宣告があった場合には保釈、勾留の執行停止は、その効力が失われます(343条)。
〇 無罪、免訴、刑の免除、刑の執行猶予、公訴棄却、罰金、科料の裁判の告知があったときは、勾留状はその効力を失うこととなります(345条)。
〇 押収した物について、没収の言渡しがないときは、押収は解かれることとなります(346条)。

〇 刑の執行猶予を受けているときに、一定の事由があったときは、検察官は、現在地、又は最後の住所地を管轄する裁判所に、刑の執行猶予取消の手続きを行うことがあります(349条)。

(22) 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意(刑法350条の2以降)


 合意制度は、特定犯罪について、①取調べに際して真実の供述をすること、②証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること、③証拠の提出その他の必要な協力をすることをすることを合意した場合には、一定の刑事処分上で公訴の取消しなどの措置をとることを合意する制度です。司法取引制度と類似する制度ということができるでしょう。
 特定犯罪には、競売妨害、文書偽造、贈収賄、詐欺・恐喝、組織的詐欺・恐喝、財政経済関係犯罪、薬物・武器関連犯罪などが存在します。
 司法取引を行うためには、弁護人の関与が必ず必要となります。

(23) 即決裁判手続


 即決裁判制度は、争いのない明白、軽微な事件について、公訴提起後できるだけ早い段階で公判期日を開き、簡易な方法による証拠調べを行ったうえで原則として即日判決を言い渡すといった手続き制度となります。被疑者は、即決裁判手続で行うことに書面で同意をし、弁護人の同意も必要となってきます(350条の9)。懲役または禁錮の言渡しを行う場合には、執行猶予の言渡しをしなければなりません(350条の14)
 証拠調べについて、伝聞法則は排除され、事実誤認を理由として上訴をすることはできないこととなります(403条の2、413条の2)。

4 上訴

 上訴とは、誤判を救済する制度として、控訴、上告、抗告があります。
① 控訴とは、第一審の判決に対する高等裁判所への不服申立て
② 上告とは、判決に対する最高裁判所への不服申立て
③ 抗告とは、決定・命令に対する上級裁判所への不服申立てを言います。
 上訴権限を有する者は、裁判を受けた者として原則は、検察官、被告人となります。もっとも、上訴を行うためには、上訴の利益が必要となるでしょう。
 上訴期間については、控訴・上告については、14日(373条、414条)であり、即時抗告は3日(422条)、通常抗告は実益のある期間(421条)、特別抗告は5日(433条)、準抗告は3日または実益のある期間(429条・430条)とされます。上訴期間の始期は、裁判が告知された日から進行します。

(1) 控訴(372条から404条)


 控訴は、第一審の判決に対して行うことができます。控訴審の構造としては、事後審として、第一審判決の当否を審査するもので、第一審判断過程の誤りがないか、個々の証拠の評価からその認定事実を導くことが論理則、経験則に反していないかが審査されます。
 控訴の提起期間は、判決宣告があった日から14日間であり、控訴申立書を第一審裁判所に提出します。控訴申立人は、裁判所の規則で定める期間内に控訴趣意書を控訴裁判所に提出をしなければなりません。通常は1か月程度となるでしょう。控訴趣意書には、控訴の理由を具体的に記載しなければなりません。控訴申立書、控訴趣意書は、いずれも裁判所に差し出さなければならず、ファックスなどでの提出はできません。

〇 控訴理由には
ア 訴訟手続きの法令違反(377条)
① 法律に従って判決裁判所を構成しなかったとき
② 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したとき
③ 審判の公開に関する規定に違反したとき
④ 不法に管轄または管轄違を認めたとき
⑤ 不法に、控訴を受理し、又はこれを棄却したこと
⑥ 審判の請求を受けた事件について判決せず、審判の請求を受けない事件について判決をしたこと
⑦ 判決に理由を付さず、理由に食い違いがあること
⑧ 上記以外の手続き違反が存在すること(379条)
イ 法令適用の誤り(380条)
ウ 量刑不当(381条)
エ 事実誤認(382条)
オ 再審事由その他の事情が存在するとき(383条)

 控訴審においても、事実の取調べはできますが取調べの範囲となるのは、原判決以前の事実に限られます。刑の量刑に影響を及ぼす情状(393条2項)については、取調べをすることができます。

(2)上告(405条から418条)


 上告は、最高裁判所が管轄を有します。上告事由は、憲法違反と判例違反という法律問題としてとらえられています。411条3号において事実誤認も職権破棄事由ですが、書面審査が原則であり、事実審ではいえません。405条の憲法違反、判例違反の上告理由には当たらないものについて最高裁判所が裁量で上告受理の申立てを行うことがあり得ます。

(3)抗告(419条から438条)


 抗告とは、裁判所の決定、裁判官の命令に対する申立てです。
 裁判官のした命令に対して、準抗告として、その取消し・変更を求めることができます(429条1項)。

5 再審(435条から453条)


 再審とは、事実認定の不当を理由として確定判決に対して救済を求めるものです。再審の請求が、有罪の言渡しを受け確定判決に対して、言渡を受けた利益のためにこれをすることができます。
① 原判決の証拠となった証拠書類または証拠物が確定判決により偽造、変造であったことの証明があったとき
② 原判決の証拠となった証言、鑑定、通訳または 翻訳が確定判決により虚偽であったことが証明されたとき
③ 有罪判決をうけた者を誣告(ぶこく:わざと事実を偽って告げること)した罪が確定判決により証明されたとき(誣告により有罪の言渡しを受けた場合)
④ 原判決の証拠となった裁判が確定判決により変更されたとき
⑤ 特許権、実用新案権、意匠権、商標権を害した罪により有罪の言渡をした事件について、その権利の無効の審決が確定したとき、無効の判決があったとき
⑥ 有罪の言渡しを受けた者に対して無罪、免訴の言渡し、刑の言渡しを受けた者に対して、刑の免除を言渡し、原判決において認めて罪よりも軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき
⑦ 原判決に関与した裁判官、原判決の証拠となった証拠書類の作成に関与した裁判官、原判決の証拠となった書面を作成し、供述をした検察官、検察事務官、司法警察職員が被告事件について職務に関する罪を犯したことが確定判決により確定したとき。

6 非常上告(454条から460条)


 非常上告は、判決が確定した後に、当該事件の審判に法令違反のあることがわかった場合に検察総長が申し立てることができる非常救済手段のことを言います。

7 略式手続(461条から470条)


 略式手続は、検察官の請求により、簡易裁判所がその管轄を有する事件については公安手続きによらない100万円以下の罰金または科料を課す略式命令を発する手続きをいいます。略式命令は被疑者に異議がない場合に進めることができます。

8 裁判の執行(471条から507条)


 裁判の確定がある場合には、執行を行っていくこととなります。刑事訴訟法では、死刑の執行に関する規定、自由刑の執行に関する規定、訴訟費用の裁判に関する規定、執行のための呼出し、収容状に関する規定、財産刑等の執行に関する規定、仮納付の裁判の執行に関する規定、未決勾留日程の算定などが定められています。

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