保釈とは何ですか。

 保釈とは何ですか。

 警察などに身柄拘束がなされているとして、保釈手続きをされたいとのご相談を受けることがあります。しかし、保釈は逮捕がなされていた場合にすぐできるものではありません。このページでは、大阪の刑事事件を取り扱う弁護士が保釈について解説させていただきます。

1 保釈とは何か

(1)保釈と

 保釈とは、保釈金等を納付を条件として、勾留の執行を停止し、被告人の勾留を解く裁判及びその執行をいいます。

 刑事訴訟法は、88条で保釈の請求ができる者を規定しており、被疑者は含まれていません。被疑者段階では、保釈手続きを行うことはできません。

 勾留前の身柄解放に向けての活動は、
・勾留請求を行わないように検察官に対する申入れ
・勾留決定に対する裁判官に対する意見の申入れ
・勾留決定に対する準抗告
・勾留取消請求
・勾留執行停止
など各種の手続きが存在します。

 それぞれの要件が定められているので、その事案に適した手段を利用し、早期の身柄解放を目指しいくこととなるでしょう。

 保釈制度が設けられている趣旨としては、起訴がなされても被告人に対しては無罪の推定により公判への出頭ができるのであれば、身柄を確保しておくことは被告の利益を大きく害するものとなります。
また、起訴がなされた段階で、検察官は事件に関する証拠収集は終えており、罪証隠滅のおそれは捜査段階に比べて低くなっています。
そこで、無用な長期間の身体拘束を避けるために、公判手続きへの出頭を確保するため、保釈金を入れ、勾留の効力をとく手続きができることとなります。

再逮捕・追起訴がなされた場合には、再度勾留の要件があるため、保釈を行ったとしても、再度保釈手続きを行わなければならないことも存在します。保釈保証金も別途必要となるため、どのような場面で保釈を行うのかを弁護人とよく打ち合わせをしておくことが大切となるでしょう。保釈保証金のことを考えるならば、再逮捕・追起訴が想定される場合には、すべての起訴が終了したのちに保釈を請求するほうが望ましいと考えられます。

(2)保釈手続の要件

 
 保釈手続きには、①権利保釈(必要的保釈)、②裁量保釈(任意的保釈)、③義務的保釈(91条)の3種類が存在します。

ア 権利保釈
 刑事訴訟法89条で、保釈請求があった場合に、89条各号の事由に該当しない限りは、保釈請求が認められるものといいます。

① 死刑、無期、短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき
 被告人が一定の重い罪を犯した場合には、たとえ保釈保証金を支払ったとしても、逃亡のおそれが存在し、公判期日への出頭を確保ができないため、保釈が認められないこととなります。
 短期1年以上の懲役とは、刑法などにより1年以上の有期懲役が定められている場合です。
例えば、強制わいせつ致傷罪等、強制わいせつ、強制性交、監護者わいせつ、監護者性交等の罪を犯し、よって人を死傷させた場合には、無期または3年以上の懲役に処するとの規定があり刑法181条1項に存在し、短期1年以上の懲役に当たることとなるでしょう。

 外にも、短期1年以上の懲役には下記のようなものがあります。
 人を死亡に至らしめる事件、多数の死傷を生じさせる危険性がある事件については、1年以上の懲役となっていることがあり得るでしょう。
・殺人罪:死刑、無期、5年以上の懲役 (刑法199条)
・傷害致死罪:3年以上の懲役(刑法205条)。
・強盗:5年以上の有期懲役(刑法236条)
・強制性交罪:5年以上の有期懲役(刑法177条)
・強制わいせつ致傷罪:無期、3年以上の懲役
・事後強盗、昏睡強盗:5年以上の有期懲役(刑法238条、239条)
・不同意堕胎致死:3年以上の懲役(刑法216条)
・遺棄等致死(遺棄罪、保護責任者遺棄罪を犯し、よって人を死亡させた場合):3年以上の懲役(刑法219条)
・逮捕等致死(逮捕・監禁の罪を犯し、よって人を死亡させた場合):3年以上の懲役(刑法221条)
・強盗致死(強盗が人を死亡させたとき):死刑、無期懲役(刑法240条)
・身代金目的略取等:無期、3年以上の懲役(刑法224条)
・強盗・強制性交等致死:死刑、無期懲役(刑法241条3項)
・現住建造物放火:死刑、無期、5年以上の懲役(刑法108条)
・現住建造物等浸害(出水させる事案):死刑、無期、3年以上の懲役(刑法119条)
・建造物等損壊致死、艦船損壊致死:3年以上の懲役(刑法260条)
・建造物等以外放火、1年以上10年以下の懲役(刑法110条項)
・爆発物破裂:死刑、無期、5年以上の懲役(刑法117条1項)
・ガス等漏出罪:3年以上の有期懲役(刑法118条)
・往来妨害罪:2年以上の有期懲役(刑法124条)
・汽車転覆等罪:3年以上の有期懲役(刑法126条)
・往来危険による汽車転覆:3年以上の有期懲役(刑法127条)
・浄水汚染致死:3年以上の有期懲役(刑法145条)
・水道毒物等混入罪:2年以上の有期懲役(刑法146条)
・特別公務員職権濫用等致死:3年以上の有期懲役(刑法196条)
・外患誘致:死刑(刑法81条)
・外患援助:死刑、無期、2年以上の懲役(刑法82条)
・通貨偽造、行使:無期、3年以上の懲役(刑法148条)
・有印公文書偽造:1年以上10年以下の懲役(刑法155条1項)
・詔書偽造等:無期、3年以上の懲役(刑法154条)
・虚偽詔書作成:無期・3年以上の懲役(刑法156条)
・偽造詔書行使:無期、3年以上の懲役(刑法158条1項)

② 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
 これは重い前科があるために、不出頭のおそれがあるとして、権利保釈の対象から除かれています。保釈の裁判を行う前になされた判決の宣告で、法定刑を基準に考えられます。

・殺人罪:死刑、無期、5年以上の懲役 (刑法199条)
・傷害致死罪:3年以上の懲役(刑法205条)。
・傷害罪:15年以下の懲役(刑法204条)。
・逮捕等致傷:3月以上15年以下の懲役(刑法221条)
・強盗:5年以上の有期懲役(刑法236条)
・強制性交罪:5年以上の有期懲役(刑法177条)
・強制わいせつ致傷罪:無期、3年以上の懲役
・事後強盗、昏睡強盗:5年以上の有期懲役(刑法238条、239条)
・不同意堕胎致死:3年以上の懲役(刑法216条)
・遺棄等致死(遺棄罪、保護責任者遺棄罪を犯し、よって人を死亡させた場合):3年以上の懲役(刑法219条)
・逮捕等致死(逮捕・監禁の罪を犯し、よって人を死亡させた場合):3年以上の懲役(刑法221条)
・強盗致死(強盗が人を死亡させたとき):死刑、無期懲役(刑法240条)
・身代金目的略取等:無期、3年以上の懲役(刑法224条)
・強盗・強制性交等致死:死刑、無期懲役(刑法241条3項)
・現住建造物放火:死刑、無期、5年以上の懲役(刑法108条)
・現住建造物等浸害(出水させる事案):死刑、無期、3年以上の懲役(刑法119条)
・建造物等損壊致死、艦船損壊致死:3年以上の懲役(刑法260条)
・爆発物破裂:死刑、無期、5年以上の懲役(刑法117条1項)
・ガス等漏出罪:3年以上の有期懲役(刑法118条)
・往来妨害罪:2年以上の有期懲役(刑法124条)
・汽車転覆等罪:3年以上の有期懲役(刑法126条)
・往来危険による汽車転覆:3年以上の有期懲役(刑法127条)
・浄水汚染致死:3年以上の有期懲役(刑法145条)
・水道毒物等混入罪:2年以上の有期懲役(刑法146条)
・特別公務員職権濫用等致死:3年以上の有期懲役(刑法196条)
・外患誘致:死刑(刑法81条)
・外患援助:死刑、無期、2年以上の懲役(刑法82条)
・通貨偽造、行使:無期、3年以上の懲役(刑法148条)

③ 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。

 常習としてとは、勾留されている事実が常習として犯された場合をいい、常習性の存否は、同種前科や当該犯罪の性質、方法、回数等諸般の事情を斟酌して判断され、保釈段階の判断であるため、有罪レベルであることは必要とされません。

・常習賭博(刑法186条)
・常習傷害、暴行、脅迫、器物損壊(暴力行為等処罰ニ関スル法律1条の3)
・盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律2条、3条

④ 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

 罪状隠滅のおそれがあるのかどうかを、罪証隠滅の対象、罪証隠滅の態様、罪証隠滅の客観的可能性、罪証隠滅の主観的可能性から判断することとなります。被告人が否認している場合であるからといって罪証隠滅のおそれがあると直ちに判断されるわけではなく、事件の性質、証拠の内容、訴訟経過、立証の状況などを踏まえて実質的に判断がなされます。

⑤ 被害者、事件の審理に必要な知識を有すると認められる者その家族に、身体、財産に危害を加えるおそれがある相当の理由がある場合

 被告人より被害者や証人などの関係者に対して、脅迫、恐喝などがなされるおそれがあるかどうかにより判断がなされます。

⑥ 被告人の氏名又は住居が分からないとき。

 氏名、住居が不明の場合には、権利保釈をすることはできません。

イ 裁量保釈

 権利保釈が認められないとしても、裁量保釈により保釈が認められないかが検討されます。
裁判所は、
① 逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度
② 体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度
③ その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すこと
ができることを定めています。

 あくまで裁判所の判断となりますが、権利保釈の除外事由がある場合でも、釈放を相当とする合理的な理由が存在することを示す必要があるでしょう。裁量保釈が相当といえるかは、勾留状の発せられている事実について判断がなされることになるでしょう。

ウ 義務的保釈
 
 勾留による拘禁が不当に長くなった場合には、勾留の許可が義務的になされる規定が存在します。勾留による拘禁が不当に長くなったときは、事案の性質、軽重、審理の経過、被告人の健康状態などその他諸般の事情を総合考慮することとなります。もっとも義務的保釈において保釈金を入れることができないときは、勾留取消しにより対応を行うこととなるでしょう。

(3)保釈の流れ

保釈を行うためには、保釈請求書を裁判所に提出することが必要となります。
保釈請求書によって保釈請求を行いますが、事前準備や保釈保証金の一定の見通しを準備しておくことが大切となります。

① 事前準備
・身元引受書
 保釈を行った場合には、身元引受人が必要となります。
 原則として、同居の親族など、公判期日への出頭を監督できる人物を用意することが必要となるでしょう。
 身元引受人には、被告人との関係がわかる書面や陳述書、身元引受書を用意することとなります。
 
・保釈保証金
 保釈がなされる場合には、保釈保証金が必要となります。
 通常は、150万円~200万円程度の保釈金が必要となるでしょう。
 日本保釈支援協会などを利用して、借入れを行うこともありますが、事実上の手数料や審査があるため、注意が必要です。
 銀行など他の借入を行う場合には、審査などいつの時点で借入を行うのかを協議を行うこととなるでしょう。

・罪証隠滅のおそれがないなど、保釈要件の検討
 保釈できる場合の要件があるか、立証の準備を行うことが必要となります。
             ▽
② 保釈請求書を担当の裁判官に提出します。
 第1回公判前ならば、令状担当裁判官
 第1回公判後ならば、公判係属部
 に対して行うこととなります。
             ▽
③ 裁判官は、検察官に対して保釈請求書に対する求意見を行います。
             ▽
④ 裁判官が、弁護人との面接を行い、保釈に関する意見の聴取、書面であらわされていない裁量保釈を認めるべき理由の説得を行います。
             ▽
⑤ 保釈許可決定がだされた場合には、保釈決定書謄本、保管金提出書が渡されます。
 裁判所の会計課に保釈保証金の納付を行います。

 保釈保証協会などは保釈許可決定が出たのに指定の口座に振り込まれるなどの流れとなります。
 保釈保証金については、裁判所の会計課が開いているときに行わなければなりません。土日祝日や夜間の納付はできないこととなっています。
             ▽
⑥ 保釈許可決定が出されても検察官から、不服申し立てがなされることがあります。
 検察官は保釈許可決定に対する準抗告と保釈の執行停止を求めてくることがあり、保釈許可買ってイがでても、すぐに釈放されないことはあり得ます。
             ▽
⑦ 保釈保証金の還付
 一審で、判決等の言い渡しがあった場合には、募集されなかった保釈保証金は還付されることとなります。

2 保釈に弁護士に依頼するには

(1)刑事弁護人を依頼しておきましょう。

 保釈を弁護士に依頼する場合には、弁護人に刑事弁護の契約を締結し、弁護人として就任をすることが必要となるでしょう。通常は、保釈手続きのみを依頼するといったことは想定されず、刑事弁護人として依頼を行うこととなるでしょう。

 保釈手続を行うためにも、事案の把握、立証構造の把握、証人、身元引受人など様々な準備を行うことが必要です。早期の身柄解放を目指している場合には、できるだけ早期に弁護人に保釈手続きも併せて刑事弁護の締結を行っていくことが必要となるでしょう。

(2)保釈保証金の準備をどのようにして行うのかを検討しておきましょう。

 保釈保証金については、弁護人が金額を用意することはできず、あくまで本人、家族などでお金を用意するものです。

① 保釈保証書発行サービスの利用

 保釈保証金の用意を行うに当たっては、弁護士が弁護士協同組合に入っている場合には、保証書の発行サービスを利用することがあります。弁護人を通じて利用の可否などを問い合わせることがよいでしょう。

② 日本保釈支援協会の利用

 保釈保証金立替システムにより、保釈金を用意することがあります。保釈支援協会に申込みを行い、審査を受け、保釈保証金立替契約を締結します。担当弁護士は、裁判所への納付及び、還付を受けた場合の返還の支援を行うこととなり、保釈金の没収などは弁護人は対応ができません。保釈保証金では、手数料がかかります。

保釈保証金が没収された場合には、申込みを行った者が返還義務を負うことがあり得ます。

③ 金融機関の借入れ

 保釈保証金として、金融機関からの借入れを行って用意をする場合があります。この場合には、弁護人は借入は関与しないこととなります。

④ 自己資金での支払い

 自己資金で支払いを行う場合には、少なくとも150万円~200万円の用意が必要となりますので、一定の資金を用意しておくことが必要となるでしょう。

3 保釈を受けた場合の注意点

 保釈を許可する場合には、実務上は、制限住所が定められることとなります。
 起訴状記載の住所が記載される場合が多くありますが、身元引受人の所在地の住所地が出されることとなります。
 
 保釈保証金については、検察官の請求により、決定をもって保釈の執行を取り消すことがあります。制限住所などから移動をしないよう保釈の条件を守るべきことに注意をしなければ、保釈金が没収される恐れがあり得ます。

① 被告人が召喚を受け、正当な理由なく出頭をしないとき
② 被告人が逃亡または逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき
③ 罪証隠滅、罪証を隠滅すると疑るに足りる相当な理由があるとき
④ 被告人が被害者、証人などに身体、財産に害を加える、畏怖させる行為があるとき
⑤ 被告人が住居の制限その他の保釈条件に違反したとき

 保釈条件については、
・一定の日数以上の旅行をする場合には予め裁判所の許可を得ること
・被害者や事件関係者との接触しないこと
 などが定められることとなります。

4 まとめ

保釈請求については、様々な準備が必要となりますので、保釈の依頼を弁護士に依頼をされるとよいでしょう。天王寺総合法律事務所では、大阪市、堺市、松原市、羽曳野市、藤井寺市、柏原市、東大阪市など大阪市近郊(兵庫、奈良、和歌山、京都など)に対する刑事弁護活動を行っておりますので、保釈手続き、刑事弁護人のご依頼されたい場合にはぜひお問い合わせください。

関連記事

・釈放・保釈したい

刑事事件・少年事件のお問い合わせ窓口 10:00~19:00

大阪での刑事事件・少年事件でお困りの皆様へ。 主な対応路線:天王寺駅・大阪阿倍野駅:JR大阪環状線、JR大和路線(関西本線)、JR阪和線、OsakaMetro御堂筋線、谷町線、阪堺電車、近鉄南大阪線・吉野線 主な対応エリア:大阪市(天王寺区,阿倍野区,住吉区、東住吉区、平野区、生野区、東成区、浪速区、西成区、中央区、城東区等),堺市、松原市、東大阪市、羽曳野市等大阪市近郊,京都府,兵庫県,滋賀県,奈良県など

CTR IMG