刑事事件で示談は重要?不起訴処分との関係は?
傷害事件や盗撮・痴漢等,刑事事件の中には直接の被害者が存在するものも少なくありません。被害者のいる事件では,被害者に謝罪や被害弁償を行う,いわゆる「示談」という言葉をよく耳にするでしょう。
「前科を付けたくないから被害者の方と示談できないか」という法律相談を受けることはよくあります。「示談」という言葉はよく耳にするが,刑事事件との関係でどのような効果を持っているのか,なぜ示談をする必要があるのか,よく分からないという方も少なくないでしょう。
ここでは,示談の効果や重要性についてお話ししていきます。
1.刑事事件の被疑者になったら…
⑴ 被疑者全員に「前科」がつくわけではない
刑事事件を起こしてしまい,「被疑者」として取調べを受けても,それだけで前科がつくわけではありません。
「有罪」にならなければ前科はつきません。被疑者が被疑事実の内容を認めた場合に,検察官が罰金刑が相当だと判断して「略式起訴」という簡易な起訴の方法を取ったパターンでは,有罪が確定します。また,「公判請求」という正式裁判を行う起訴の方法を取った場合は,裁判所が有罪かどうかを判断することになります。
このように,略式起訴された場合か,正式裁判で有罪が確定した場合にのみ,前科がつくのです。
⑵ 「不起訴」になる場合
正式裁判で無罪となった場合や,検察官が不起訴の判断をした場合には前科はつきません。起訴するか,不起訴にするかは,検察官が判断することになります。
検察官が不起訴にするパターンは,罪とならず・嫌疑不十分・起訴猶予等いくつか存在します。その中でも最も多いのが「起訴猶予」になる場合でしょう。
起訴猶予とは,被疑者が犯罪行為を行ったという証明は可能だが,本人の反省や犯行態様,被害者の処罰感情,前科の有無等の諸事情を考慮して,検察官の裁量で不起訴とする場合をいいます。
被害者との示談は,ここであげた「被害者の処罰感情」を検察官が判断する上で重要な要素になり得るのです。
2.示談の重要性
⑴ 起訴・不起訴の判断との関係
既にお話しした通り,検察官が起訴猶予の判断をするための要素の中に,「被害者の処罰感情」が含まれています。「処罰感情」とは,被害者がどの程度被疑者を処罰してほしいと考えているのか,ということです。つまり,被害者が「被疑者をきちんと処罰してほしい」と思っているのか,それとも,「本人も反省しているようなので許しても良い」と思っているのか,という事情が「処罰感情」として検察官の判断要素になるのです。
ですから,被害者に「許しても良い」と思ってもらうことが大切です。しかし,何もしなければ,どれだけ申し訳ないと思っていても被害者に謝罪の意思は伝わりません。また,被害者が「許しても良いかな」と思っていても,検察官にその意思が伝わらなければ意味がありません。
そこで重要なのが「示談を行うこと」なのです。被害者に謝罪の意思を伝えるためにも,誠意をもって謝罪し,被害弁償を行うことが大切です。被害者が示談の申し出を受け入れてくれれば,きちんとした「示談書」を作成しなければなりません。示談書の中にも謝罪の言葉を入れ,被害者が許してくれたという言葉も入れておくことが大切です。この示談書を検察官に見てもらえば,謝罪したことと被害者が許しても良いと思っていることが客観的に明らかになるでしょう。
⑵示談をすれば不起訴になる?
ここまでお話ししてきたように,検察が起訴・不起訴を判断するにあたって被害者の処罰感情はかなり重要です。しかし,その他にも犯行の悪質性や常習性等,重要な要素は複数あります。たとえば,盗撮をしてしまって示談が成立していても,過去に同じ盗撮で不起訴になったことがあったり,盗撮で罰金を支払ったことがある等,同種犯罪の前科・前歴がある場合には,初めて刑事事件を起こしてしまった人より不起訴になる可能性は低くなってしまいます。
示談が成立してもその他の事情によっては不起訴にならないこともあります。しかし,示談が成立していることが有利に働き,公判請求ではなく簡易な裁判である「略式起訴」という判断になる可能性もあります。
公判請求はテレビドラマ等でよく見る裁判ですが,略式起訴は,裁判官が書類だけを見て刑罰を決める簡易なものです。本人が被疑事実の内容を全て認めており,検察官が罰金刑が相当であると判断した場合に限り,略式起訴を行うことができます。
更に,公判請求された場合でも,裁判所が刑の重さを判断するにあたって,被害者の処罰感情や罪を犯してしまった人の反省の態度は重要な考慮要素になるものです。
このように,「被害者の処罰感情」「本人の反省の態度」は刑事事件のどのような場面でも重要な考慮要素になりますから,示談は大切なのです。
3.被害者との示談は自分でもできる?
刑事事件にとって示談が重要であることは理解していただけたと思います。では,この「示談」は自分でもできるものなのでしょうか。
まず,被害者とはもともと顔見知りで連絡先等を知っている場合にはご自身で示談活動を行うことも不可能ではありません。直接連絡を取り合って謝罪をし,被害弁償の申入れを行えば良いのです。
ただし,示談金の相場が分からなかったり,うまく謝罪の意図が伝わらない可能性はありますし,適切な「示談書」を作成することが難しいこともあります。ですから,被害者の連絡先を知っている場合でも,弁護士にご依頼される方が良いかもしれません。
一方,被害者の連絡先等が一切分からない場合,連絡先を知る方法は警察や検察に確認する以外ないでしょう。ですが,警察や検察は,被害者の連絡先を教えてはくれません。謝罪をしたいと伝えた場合も同様です。被害者の連絡先を加害者側に直接教えることで,加害者側が接触を図り,新たな事件が起きたり,被害者に被害届を取り下げるよう迫ったり,被害者に悪影響が及ぶことを危惧しているからです。
ですから,被害者の連絡先が不明な場合,示談活動を行うためには弁護士に依頼することをお勧めします。
4.まとめ
被害者の処罰感情,本人の反省の態度を示すことは,検察官の最終判断にとって大切です。そのため,示談活動は不起訴に向けた活動の最たるものなのです。
しかし,示談活動を行うためには,警察や検察に被害者の連絡先を教えてもらい,被害者と直接連絡を取って示談の提案を行い,被害者から回答を貰わなければなりません。示談を行うには時間がかかることも少なくありません。示談をする前に検察官が起訴するという判断を固めてしまう可能性もゼロではないのです。
もし警察に被疑者として取調べを受けてしまい,被害者に謝罪の気持ちを伝えたいとお考えの場合は,一日も早く弁護士にご相談ください。